相談無料というエサ



最初は週に1度、朝帰りするか、帰ってこない程度だったので、
“そんなに忙しいのかなぁ?”という疑問を持つくらいだった。
うちの旦那さまに限って、まさか名古屋で浮気なんて。
行動がおかしいと思いつつ、どこかで信じたい自分がいたんだと思う。

それが、ここ1ヶ月半。
もう、おかしいというだけの程度では済まなくなってきていた。
家に帰ってくる日数の方が少ないくらい。 どれだけ、名古屋に入り浸っていいるんだ?そこまで入り浸れるってことは、名古屋の既婚者との不倫ではないだろう。独身の女に違いない。名古屋の探偵でも無いのに、ここまで推理が働くとは、名古屋の探偵になって、調査をしてみようかと、思った位だ。
わたしは、自分の手帳にきっちりと旦那さまの帰宅時間を記入していた。
絶対、名古屋にある会社はここまで残業をさせないはず、とどこかで確信してしまった。探偵でもないのに…。

旦那さまを問い詰めたところで、名古屋出会っているであろう相手との本当のことを言うだろうか?
まだ小さな子どものいる中、もしものことがあったら、どうやって子どもを育てる?

もし、離婚という結果になったときのことまで想定すると、やっぱり証拠はつかんでおかなければ・・・。
悩んでいる1ヶ月半の間に、そう決心することができた。
けれど・・・。

決心できたからと言って、勇気が持てるわけでもない。そう。名古屋の探偵会社へ相談電話をすること。

わたしにとって、探偵って、今まで縁もなかったし、探偵が自分の人生に関係のあるものだと考えたこともなかった。
まれにテレビのドキュメント番組で探偵が何かしらの調査をしているのを見たことがあるくらい。
それも、“探偵を雇うなんて大変な人もいるんだなぁ”と、客観的に見ていただけ。
いったい、どれくらいの調査料金が探偵を雇うのにかかってしまうのか。
それに、調査を依頼するにしても、同じ名古屋市内で頼むより、ちょっと離れた探偵会社に頼むべきなのか? それでも、名古屋で起こっていることは、名古屋で調査するべきないのか?

悩みに悩んでから、探偵の“相談無料”という言葉を自分に言い聞かせ、ついに、電話をかけてみたのだ。
直接探偵さんが出るものだという固定観念のあったわたしは、事務的な若い女性が応対に出たことで、少し驚いてしまった。
単刀直入に浮気調査についてお聞きしたいということと、おおよその金額を教えて欲しいということを女性に伝えた。

けれど、返ってきた答えは、
「わたくしにはわかりかねますので、直接、相談担当のものがお聞きします」とのこと。
そして、都合の良い時間等を教えて欲しいという。

とりあえず価格的なことがわからなければ、誰かに会ってから断るなんて自分も嫌だし、名古屋でも一般的な価格だけ、とくらいついても、“わたくしにはわかり兼ねます”の一点張り。

その日は電話を切ることにした。
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